多言語話者の海外移住日記

変化を好み移住をくりかえす5か国語話者です。母国日本も大好き。現在は台湾。

ある台湾人による翻訳の極み

先日、台湾にあるセブンイレブンのフードコートにそっと貼ってあった貼り紙が神がかり的だったので紹介します。

これ。↓ どこが変だかわかりますか?

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フードエリア開放時は持ち込み禁止ですよ、という注意書きが中国語と英語で書かれています。

 

しかし!よーく見たら、英語の中にひとつ見慣れない単語がある。

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「hinein」!ドイツ語じゃん!ひょえー珍しい!なんでこうなったの!?

グーグル翻訳を使ったとしても、文法がめちゃくちゃな可能性はあるけど2つの言語を混合させるなんてことはまずありえないですよね。

予測変換機能でこうなったのかな?翻訳者はドイツ語と英語を頻繁に使っていて、たとえば「here」と打とうとして「h」を打った時点で「hinein」に変換されてしまった。それを見落としてこうなった。その可能性もありそうです。

しかし文の構成から見てこの部分を「here」にするのは適切ではありませんよね。動詞は「carry(持ってくる、運ぶ)」なのだから「ここで(here)」じゃなくて「ここへ」と書かなければならない。

・・・でも適切な英語ってあるかな??「ここへ」なら「in」とか「into」と直訳できるけど文の最後には持ってこれないでしょう。

「inside」が近い気がするけど、それなら動詞はcarryよりbringのほうが適切なのでは?と(英語母国語者ではない私は)感じます。しかし英国人に聞いてみたらcarry~insideでもおかしくないのだそうです。

そうだとしてもinsideをどうやってhineinと書き間違えるのか?

やっぱりこれは翻訳者が意図的にhineinを選んだ可能性が高いと私は思う。ていうかそうでなければ出てこない単語なんです。なぜかというと、このドイツ語の単語がどの英単語よりもこの文にふさわしい意味を持っており、文法的にもぴったりと筋が通るからです。

 

ドイツ語の「hinein」は副詞、または接頭辞です。中へ入るという動きを表す単語で、動詞の前につなげることもできます。たとえば動詞「bringen(持って行く)」→「hineinbringen(持って入る)」または「tragen(運ぶ)」→「hineintragen(運び込む)」というように使える。とっても便利。

さらに文の中で接頭辞「hinein」がついた動詞は分裂することができ(たとえばhineinとbringen)、順番をひっくり返して動詞が2番目、hineinを最後に持ってくることができる。これはドイツ語の普遍的な文法構造です。

つまりドイツ語の文法を上記の英文に当てはめた場合、英語「inside」よりも自然で適切に当てはまるのがこの「hinein」というドイツ語なわけです。

とにかく何が神がかっているかというと、ドイツ語と英語に精通する人にとっては全く違和感のない文で、なぜここに「hinein」が来るのかが十分に理解できる文なんです。もちろん同じ言語ではないという決定的欠陥がありますが!!!

 

で、何でこんなすごいことができたのこの翻訳者??一体これを訳したのはどんな人なの??

おそらくセブンイレブンの従業員ですよね。バイトかもしれない。いずれにしても台湾人でしょう。そして彼/彼女は英語とドイツ語の両方を勉強している。そのためいくつかの単語がごっちゃまぜになっていて、「hinein」を間違って英語だと認識している可能性が高い。だからあんな翻訳になった。つまり意図的ではなかった、と考えるのが妥当でしょうか。

それにしてもドイツ語の「hinein」を始めとする接頭辞の使い方はドイツ語に独特にあるもので、英語にも中国語にももちろん日本語にも存在しません。初級のドイツ語学習者が使いこなせるような単語ではないんです。

私なんて上級レベルになり頭で理解したあとも、使いこなせるにはさらに時間を要しました。

そんな難易度の高いドイツ語の単語を、英語と混同させていたとはいえこの台湾人の翻訳者は正しく理解している。使う言語を間違ってはいたけど正しい位置で、どの英単語よりもふさわしい場面で持ってきている。

 

これが偶然??

 

いやまさか、違うよね。きっと英語もドイツ語も理解度が高い、言語の学習に熱心な台湾人なんだろうな。

あの張り紙は、あまりにも簡単な間違いではあるのだけど、実はとてつもなくレベルの高い、適当にできるものではない間違いだと私は思ったのでした。

翻訳者に拍手。

 

周末快樂!