多言語話者の海外移住日記

変化を好み移住をくりかえす5か国語話者です。母国日本も大好き。現在は台湾。

海外で日本人が日本人を騙した話

海外には、自分と同じ国出身の人に親近感を持つ人ととくに持たない人の2種類がいる。一定数日本人がいる多くの国の多くの地域で、日本人コミュニティー的なものがあることは前者の数が多いことを物語っています。

そして特に初めての留学だったり、不安感が強い人、言語に自信がない人ほど前者になるのではないでしょうか。そうでなくても、母国にいる頃に比べて同国の人に対し警戒が緩くなる心理はどこかしらあると思います。言葉が全部通じるという相手は異国では貴重なのだから。

台湾に留学していた時に、そんな心理につけこむ日本人がいました。初めての長期留学先で今より相当世間知らずだった当時、それは驚きの出来事でした。こんな人がいるんだって。私が被害者ではありませんがその体験を少し紹介したいと思います。



亜希さんは秋田県出身で、当時25歳でした。私は当時20歳かそこらで台湾に来たばかりで、初級2のクラスに振り分けられていました。亜希さんは3か月前から来ており、初級1から進級して同じクラスになりました。そのほか亜希さんと一緒にあがってきた60歳のおじさんと、私と同時期に来た30代後半の女性をあわせ、クラスには4名の日本人がいました。

30代後半のちあきさんは私にとても良くしてくれました。英国に留学経験があり、そこで知り合った台湾の友だちの家にホームステイをする形で留学に来ていました。気配りも上手で優しい人でした。とても話しやすかった記憶があるので、内容やテンションも合わせてくれていたのかもしれません。

 

亜希さんはいわゆる”ドタバタ系”で間際になってバタバタするタイプ。申請するのも学費を支払うのもギリギリ、クラスにも数日遅れて参加しました。よく遅刻もしていたし、来ない日もありました。清潔な感じだけどおしゃれには無頓着で自然体で、色々忙しそうな人でした。3か月前からいて慣れてるんだなという感じでした。
でも話してみるととても穏やかで人の話をよく聞く人で、よく笑い、みんなから愛されていました。独特な抑揚のある話し方とテンポを持っていて、いい感じの人だなあーと思っていました。

亜希さんともちあきさんともよく安い昼ごはんを一緒に食べていろんな話をしました。時々60歳のおじさんもいました。亜希さんはよく初級1のクラスで知り合ったフランス人の彼の話をしていました。今は遠距離だけど、”彼はうざくない程度にマメなんだよね~”といつも言っていて、仲がよさそうでした。彼と電話をしたあとにルームメイトから”あんたたち楽しそうにしゃべってたけど、一体何についてあんなに長くしゃべってるの?”と聞かれて、答えられなかったとかも言っていました。英語での意思疎通がうまくできず、会話にならないのになぜか仲がいい不思議な関係だとも言っていた。とっても幸せそうでした。

次はいつ会う予定なのかという問いには、学期終わりに彼が台湾に来て、そのあともしかしたらフランスに行くかもしれないと言っていました。

 

その他亜希さんに関し毎日一緒に授業を受ける上で感じたことは、よっぽどのミニマリストかお金がないのかなあということでした。亜希さんは3枚ぐらいのシンプルな服をうまく着まわしていました。全然服を持っていないんだなということは一目瞭然でした。でもみすぼらしくは見えず、ピアスやブレスレットを変えたりして工夫しているようでした。

ある日、ふだんはすっぴんで来る亜希さんが、このあと人とあう予定があるといってうすく化粧をしてきた日がありましたが(といってもちょっと赤い口紅ぬっただけだったような)、その日の服装も何度も見たことのあるものでした。この服が彼女にとって一番よそ行きの服なんだなと思った記憶があります。

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3か月続く授業があと1か月ぐらいになったとき、亜希さんは突然学校に来なくなりました。最初はみんな風邪かな?体調悪いのかな?と言いながら、でも1週間たっても2週間たっても亜希さんは現れず。結局最後まで来ることはありませんでした。

亜希さんは携帯を持っていなかったので、連絡をとることもできませんでした。フランスの彼が台湾に来るって言ってたし、そのまま蒸発しちゃったのかな、という憶測もありました。



亜希さんがいなくなって少したったころに、ちあきさんが私に打ち明けてくれました。

「亜希ちゃんは、私がお金を貸した次の日からいなくなったんだよ」って。

話によると、亜希さんが、ちあきさんと60歳のおじさんの2人に対し、

「お願いです!すぐに返すから1万8000元貸してください!(約5万円)」と頭を下げてお願いしたんだそう。

すぐに必要なんだと思ったちあきさんとおじさんは2人とも承諾したんだけど、おじさんに借りるより、より仲が良い自分が貸した方が亜希さんもいくらか気が楽だろうと思い、ちあきさんが貸したんだそう。

 

ちあきさんのホームステイ先の台湾人は”それ、騙されたんだよ”と言ったらしいが、ちあきさんは亜希さんがいなくなって数週間たっても、まだ亜希さんを信じていました。

何か返せなくなった理由があったのではないか。返そうと思っていたのに学校に来れなくなった理由があったのではないか、と。入院しているという噂が流れたりもしました。
私も言いました。”私だって亜希さんに頼まれてたら貸してたと思う。だって亜希さんやもん。”と。あの亜希さんがそんなことするはずがないという先入観がちあきさんにも私にもあって、その先入観がお金が返ってこないと分かった後でも、何かあったんじゃないかと亜希さんそのものを疑うことにはつながらなかった。口にしたくなかっただけかもしれないけど。

大人なちあきさんは、亜希さんについての恨みつらみは一切言わなかったけど、”おじさんが、俺が貸すよと言ってくれたときに甘えておけばよかったわ”と笑っていた。

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この亜希さんという人物をどう見るか。
もう10年以上前の話だけどちょっと振り返って考えてみた。

亜希さんが同じ国の人からお金をだまし取ったというのは事実です。なぜか?それは故意だったのか、故意ではなかったのかというところがまず気になります。

故意でなかった可能性はちあきさんがいくつも考えて信用しようとしました。

私は最初から計画していた可能性のほうが高かったのかなと感じます。

後から考えれば、彼女は最初からそのつもりで日本人たちに接していた。携帯を持っていなかったし、Facebookなどのネットワークも一切持っていなかった。分かっているのは普遍的な本名だけ。連絡手段や個人情報に気を付けていたんだと思う。

そして、貸してもらえそうな相手もちゃんと選んでいたと思う。若い人は最初から除外されていたんだと思う。若い子は経験の浅さからちょっとしたことで騒ぐしね。若者よりお金に対して心の広そうな優しい年配者に頼んだ。

その上5万円という額は、日本人留学生にとって必ずしもあきらめのつかない額ではない。5万円のために血眼になって返してもらおうとする人はそこそこ歳を重ねた留学生であればなお少ないのではないか。2万元、ではなく1万7000元という中途半端な数なのも、特定の目的に緊急で使う→すぐ返すことを信じさせるのに一躍買っていたかも。

そしてなんといってもコミュニケーション能力。誰に対しても明るく丁寧に、そして無難に接していた印象があります。”信用させる”ことのメリットを十分に理解し、日本人の断りきれない性格や彼らが好感を抱くキャラクターまでも知っていたのではないか。またそれが自然にできる人だったのかも。
でも、毎日毎日べったりとした関係ではなかったことも事実で、忙しそうだったしそれなりの距離もあった。はいり込まれすぎない距離の取り方も心がけていた気がする。これが全部計算だったらきっと常習犯だよね。もちろんそうではなく、もともとの彼女の性格である可能性もあります。

亜希さんが台湾にいたのは半年足らずで、その前には何をしていたか聞いたかもしれないけど今は思い出せません。でもあれだけモノを持たない身軽な状態で台湾に住んでいた亜希さんは、海外生活にかなり慣れている印象がありました。英語もてきとーに意思疎通できる感じでした。

短期滞在を繰り返してその場でお金を集め、世界を転々としているのかな。それともたまたまだったのかな。今となっては真相はわかりません。

 

 最後に、亜希さん側からの視点で想像してみます。なぜこんなことをしなければならなかったのか?
誰しもこんな詐欺まがいのことはしたくないでしょう。私はもし亜希さんが故意にこういう行為を繰り返していたとしても、心痛い思いをしていると信じています。亜希さんには間違いなくお金がなかった。騙してでもお金が必要だった。

でもどう考えても状況がおかしいですよね。

彼女は留学生です。お金が必要なら日本で働けばいいし何らかの理由で日本にいたくないとしたら、海外で職を探さない?先進国の強みで、安月給だけどスキル問わずの仕事はいくらでも海外にある。コミュ力のある彼女なら、人づてに紹介してもらうとかいくらでもできることがある。なのになぜわざわざ留学生として学費を払ってまで台湾に滞在してるの?すんごい矛盾している。その半年間の学費、家賃、生活費どうやって工面したの?5万円を借りるほどなのに?

そう考えると、最初から騙す計画をしていた可能性は低いようにも思えます。むしろ計画ができない人だからこそ、間際になって足りなくなってホントに返そうと思いながら借りたのでは?でもお金が手に入ってしまったら、飛行機のチケットも買えたし一件落着。助かった。いいや、このまま逃げちゃえ。と思ったとか。

中国語もそんなに熱心に勉強していなかったし、彼女はホントになんで台湾に来ていたのかよく分からない。男関係でもなさそう。最初は、よし!中国語!と勢い込んで留学に来てみたけど、飽きちゃったってことなのかなぁ?計画性のない突発的な人ならありえそうな話なのかな。もし突発的にお金を借りて返さなかったのなら、モラルのないただのアホという結論です。

けれどももし、今回だけでなく、同じ行為を繰り返しながら世界を転々としているんだとしたら。そうしなければならないまたはそうするしかない理由や問題が何かしらあるとしたら。亜希さんってかわいそうな人だなと思います。この人のしたことは優しさや信用に付け込んだ卑劣な行為です。でも定期的に人間関係を塗り替え、詐欺まがいの行為を繰り返すことで生きている(かもしれない)亜希さんのような人が、一番助けを必要としているのかもしれない、と感じたりもするのです。

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長くなってしまいましたが、あなたは知り合って2か月の友だちにお金を貸しますか?それも、好感を持てて仲良くなったけどまだ名前しか知らない状態だとしたら。免許証やカードなどを見る機会もなく、素性も知らない人に対して貸すでしょうか?

日本だったらノーという人が多いんじゃないでしょうか。緊急に必要だなんて言われたら怪しいなと思うかもしれない。でも海外で緊急な状態って日本とは全く緊張感が違う。そんな優しさにつけこまれたちあきさん。

やっぱり今回の亜希さんの行為は、日本人の海外ならではの心理に巧妙につけこんだ結果だと思います。だって騙した後でさえ、一定期間信じさせたのです。日本だったらいくら能天気でも直後に消えたらさすがに気づくでしょう。これも海外ならでは。短期間での信用構築度が驚くほど高いですね。

留学の際には頭の隅に入れておいて損はないです!

 

bis bald!