NANAKOの海外移住日記

変化を好み移住をくりかえす5か国語話者です。母国日本も大好き。現在は台湾。

"事故待ち"の若者:マレーシア

マレーシアの交通にまつわる話です。 

2017年に出た、交通事故の死亡率が高い国ランキング。

f:id:nanapupst:20180219211723p:plain圧倒的1位のタイ、2位の南アフリカに続きマレーシアが3位。

 

タイでは10万人中36,2人と圧倒的に多いですが、マレーシアも10万人中23人と高い数字が出ています。マレーシアの人口と比較して毎年約7000~8000人が交通事故で死亡しています。実際に2016年の死亡者は7152人、平均1日約20人が命を落としています。

ちなみに人口がマレーシアの約4倍である日本での2017年の交通事故死亡率は3694人。非常に低い数字です。

 

さらにこんな記事も。

マレーシアで2016年の中華系の農歴新年のたった1週間のあいだに起きた交通事故が3万6千件を超えるというのです。ちなみに2015年の同じ時期には約1万7千件であり、いきなり94%も増えた。2015年新年の死亡者186人に比べ、2016年はかなり上昇している事は間違いありません

 

ちなみに交通事故が多い原因は、もちろんドライバーの危険運転やスピードの出しすぎ、モラルや状況判断の低さなどの問題も多々ありますが、一番の原因はバイクです。バイクが多すぎる上に道路状況が非常に危ない。バイクの被害者は最も多いはずです。車などはまだ富裕層の持ち物で、一般的にバイクで移動する人が多いため、徐々にバイクから車へと生活が変わっていけば交通事故は減っていくかもしれません。

 

――――――――――――――――――――

 

ではマレーシアで交通事故があった場合、どういうシステムによって処理されるのか。日本と決定的な違いがあります。

それは、事故の第一現場に警察が一切介入できないということです。実際、警察車両がたまたま通ったところに交通事故が起きても、警察は完璧にスルーして去っていきます。現地の人は、警察にはその権利がないのだと主張します。なぜ?じゃあ誰にその権利があるの?それは、弁護士です。

 

マレーシアの大通りなどでは至る所に”事故待ち”の若者が待機しています。私の知り合いは派手な色一色のポロシャツを着て事故待ちをしていました。服の指定があるのかどうか定かではありませんが、地元の人は見た目ですぐにわかる場合が多いといいます。

 

若者たちは道路の脇に待機しながら、近くで交通事故が起きることを待ちわびています。交通事故の処理をすることができれば高い報奨金をもらえるからです。事故処理をする権利は、”交通事故が起きたとき、一番最初に現場に到着した人”だけにあります。非常にフェアーですね。バイクを持っている若者は有利です。一見遠くで起きた事故でもバイクで駆けつけることができます。しかし1日中真面目に事故待ちをしていても、目の前で交通事故が起こらなければ報酬はゼロです。完全な歩合制。

しかし上記の農歴新年に主要な道路に出ていれば、ほぼ確実に交通事故の恩恵にあずかれるのではないかと思えるぐらいの事故率ですよね。ほぼ毎日事故が起きる危ない道路というのも存在するのかもしれません。

 

若者の事故処理の手順の一例はこんな感じです。

・交通事故を見つけたら一番に駆け付ける。

・すぐに自分の弁護士に連絡する。(この時点で事故が自分の処理下に置かれる)

・人間が負傷していた場合、ただちに病院に送る。

・事故車両処理の業者に連絡。→ 修理工場にもっていくよう手配し、破損状況の写真を撮らせる手配を整える。

・負傷者と一緒に病院に行き、終わるまでつきそう。入院だとこの時点で仕事終わり。

・加害者の身元をゲットする。(加害者への干渉はここで終了)

・被害者が動けるようであれば一緒に警察に被害届をだしにいく

・被害者を家に送り届ける

・被害者の怪我の状況などを弁護士に報告する

ここまでで事故待ちの若者がする仕事は終わります。そして若者の1日の仕事に対して弁護士から報酬500リンギットが支払われます。(マレーシアの普遍的な仕事の約半月分の報酬に相当する)

 

つまり交通事故の処理はすべて弁護士とその手下(事故待ちの若者)たちが請け負い、警察には報告をして被害届をもらいにいくだけです。警察は一切事故現場に検証にいったり、加害者と被害者の状況を調べることがありません。ただ被害者から聞いた状況をそのまま記録し、被害届を作るだけです。

作られた被害届は第一発見者の担当弁護士のもとに送られます。

 

この後は弁護士の仕事です。主に証拠写真を集めることです。入院中でも自宅に戻っていても体が少しでも負傷していれば、訪問して傷口の写真をなるべく痛々しく見えるよう撮影します。病院のカルテなどは必要ありません。事故車両の引き渡しも弁護士がやります。

 すべての資料をそろえ、加害者側の保険会社に請求をします。保険会社から補償してもらえる額は弁護士の手腕や揃う書類によってさまざまだそうです。一例では弁護士が受け取る報酬は補償額の4割、残りの6割は被害者の銀行口座に振り込まれます。

 

一連の流れは非常に合理的に見えます。必要な証拠品をあつめて弁護士みずから加害者の保険会社に請求し、被害者にも支払われる。被害者にとっても非常に楽です。しかしスムーズにいけば何の問題もありませんが、このやり方には多々問題もあると思われます。

・たとえば、事故処理を担当した若者がその瞬間を見ていなかった場合。2人負傷してもどちらが被害者かわかりません。事故待ちの若者は重要な目撃者でもあります。仮に2人とも相手が悪いと主張すればどうなるでしょう。こういう場合に警察の検証がないのは厄介です。弁護士が事故車両を見て判断するのか、もしくは負傷がひどい方に味方するのか(保険金が多くおりる)、このへんは非常にダークです。

 

・弁護士が強すぎる、という点もひっかかります。このシステムだと弁護士は権限を悪用できます。頻繁に行われているのは事故車両を後から故意に壊して、さらにひどくこわれた状態の写真を証拠として提出し、保険金を多くとる手口。そのほかも被害者の傷口をひどくみせるために写真の加工をしたり大げさな表現もできます。(骨が折れたなど)そのため、実際にかかった事故の総額よりもはるかに多い金額を保険会社から受け取れるのです。

 

・さらに事故待ちの若者が交通事故に飛びつくときに、2次災害が起きる可能性も多いと感じます。若者にしてみれば捕まえれば一攫千金です。道路の真ん中で事故が起こったときに安全確認を怠って出てしまい、巻き込まれるケースもありそうです。非常にオイシイ仕事である代わりに、我を失っては命も失う仕事なのです。

 

・被害者にとってはとても楽でありがたいシステムにも見えますが落とし穴もあります。弁護士がとってくれた保険金は必ずマレーシアの銀行経由で振り込まれることになっています。では、銀行口座を持っていない現地人や外国人、移民などはどうなるの?その場合は残念ながら保険金はまるまる弁護士のものになっちゃいます。現金では決して支払ってもらえません。

また被害届は事故の当日に行かなければ、後日発行はしてもらえません。ヨロヨロでも歩ける状況なら、担当の若者が無理してでも警察に行かせようとします。被害届があるのとないのとでは保険金の下りる額が相当変わるからです。

 

しかしいろいろあれど総合的には、この事故システムは最善の方法なのではないかと思います。というかそうするしかない気がします。

多すぎる交通事故を警察がすべて処理するのは不可能です。人口3千万ちょっとの中で、一週間で最多3万件以上も事故が起きてどう対処できるのでしょう。それに政府の警察は腐敗しきっています。たとえば検問はドライバーから賄賂を受け取るためだけに行います。仕事も真面目にしません。弁護士のほうがよっぽど迅速に適切な対応をしてくれます。

さらに政府の病院もちゃんと機能してはおらず、生死にかかわらなければ処置のないまま放り出されることもあります。そのため自宅で療養しなければなりません。助けてくれる人がそばにいない状況の被害者には、弁護士の手下たちが最低限の食べ物などを持ってきてくれたり、服を洗ってくれたりもします。

政府の警察と政府の病院という国民の二大命綱がうまく機能しない状況で、頼れるものがない中、起きた被害を助けることができるのは実は弁護士だけなのかもしれません。

 

それより何より、お金で自分の身を守るのが一番安全だということです。

 

Bis bald!

 

☆☆☆

 1.去年車禍率激增94.6%! | 東方網 | 馬來西亞東方日報

 

 これは約10年前の状況です。現在は変わっているのか否か、また分かれば記事にします。